組織再編-ソリューション事例
不採算店舗のリストラと店舗再生、二つの問題を 「会社分割」 を使って同時に解決した事例
「サービス業 (美容関連)T社」の事例
T社は東京都内で美容室6店舗を展開している中小オーナー企業です。
T社全体の業績は堅調に推移していますが、その中で極端な不採算店舗であるX店を処分(売却・閉鎖)したいという話で、これに伴う店長他余剰人員のリストラ解雇についてのご相談を受けたのが出発点です。
そのリストラ対象となっているX店の赤字は慢性化しており、X店の損失を他5店舗で穴埋めするという状態が恒常化しています。
【T社基本データ】
- 資本金
- 4,800万円
- 従業員数
- T社…47名 (整理対象店舗X店…6名)
- 売上高
- T社…3億円/年 (整理対象店舗X店…2,100万円/年)
| T社の詳細データ | 整理対象店舗X店の詳細データ |
|---|---|
| 【設立】1992年 【店舗数】6店舗 【株主】1名 (代表者) |
【開設】2001年 【所在地】 東京都下 【店舗面積】103㎡(31坪) |
■X店リストラに伴うリスクの所在
そこでT社オーナーは店舗売却を検討しますが、売却先はかんたんに見つかりそうもなく、仮に見つかったとしても、相当低価格での売却を覚悟しなければなりません。
仮に売却をあきらめ、店舗閉鎖で漫然と人員のリストラを進めると、今度は解雇が違法と判断される可能性が高く、紛争への発展や慰謝料負担の問題等大きなリスクと経済的負担を負うことになります。
また、同業界は顧客確保を顧客と技術者との信頼関係に依存する傾向が強いことから、リストラ検討にあたっては、店舗閉鎖に伴う顧客流出も考慮に入れなければなりません。
■店舗 「整理」 から 「再生」 への方向転換
一方、X店はまだ新しく、設備もまだ充分活用可能であり、50人のスタッフの中から埋もれた人材を発掘し、これに実効性の高いビジネスプランを組み合わせる施策で、X店にまだ再生の余地が充分残されていると考えられます。
そこで私たちは、 「会社分割」というM&Aスキームを採用し、T社の 店舗運営のフォーメーションを変える ことでT社の持つ潜在能力を引き出し 、これを事業再生の原動力に活用することで、諸リスクの回避と事業再生を同時に実現するスキームを提案します。
ソリューションプロセス
・工程-1:X店再生のキーマンを社内より発掘
まず、T社全従業員よりX店オーナー候補を公募します。
そして、それぞれに自らが描くX店再生のビジネスプランを提出させ、充分な協議・審議を経た後、オーナー他従業員より最も支持を得た候補者にX店再生を委ねます。
特に分割されるX店に在籍する従業員にとって、経営者の交代は自らの雇用に大きな影響を与えることから、彼らの意見も尊重します。
・工程-2:会社分割の実行
そこで選出されたX店新オーナーYは、会社分割スキームにのっとり新設会社T-2社の代表者となり、T社より移転されるX店の運営とT-2社の経営責任を負うことになります。
そして新オーナーYとT社との関係は、従来の「使用者(T社)」と「従業員(Y)」の関係から、「株主(T社)」と「経営者(Y)」との関係へと劇的に変化します。
Yには、このあたりの立ち位置の変化と、店舗再生の趣旨、権利義務関係、責任の所在、リスクなどを充分に説明し納得、同意の上でX店の経営権を渡します。
【配置転換 VS 会社分割】
しかしここで、このようにわざわざ手間とコストをかけて分社化しなくても、現状組織内での人事異動で立て直しを図る途があるのでは?という疑問が生じてきます。
T社の事業は、オーナー会社特有の強力なトップダウンにより運営されています。
事前の従業員へのヒアリングでは、配置転換という雇用管理ツールのみでは、X店の再生効果は限定的なものにとどまるとの見方が大勢でした。
現在T社内にある経営資源の配置と組み合わせを変え、T社内では発揮できなかった潜在能力を引き出すプランに、関係者の多くの理解を得ることができたため、会社分割スキームの採用に踏み切りました。
もっとも、この会社分割実行にあたり、Yに1名のスタッフ選任権を与えており、この人員についてはT社よりの「出向」というかたちでX店の再生に携わることになりますが、これはあくまで会社分割とは別の付加的なツールとして活用しています。
【事業譲渡 VS 会社分割】
ここまで見ると、Yを買い手、T社を売り手とする「事業譲渡」(売買)と外形上何ら変わらないようにも見受けられます。
しかし、ここで「会社分割」と同じM&Aスキームである「事業譲渡」との間の決定的な相違点が、同スキーム採用の大きな決め手となっていることから、この点について少し触れておきたいと思います。
「事業譲渡」も「会社分割」も、T社から見て店舗Xという財産がT社の外に出る取引であることに変わりはありません。「事業譲渡」の場合、単純に「売買」ですから、このX店の事業とこれに関わる財産が外に出る際、買い手はその見返りに「キャッシュ」を支払わなければなりません。
つまりこの事例で言うとYはT社よりX店を 「現金」 で買う / T社はYに 「現金」 でX店を売る
ということになります。
ところが「会社分割」は、X店取得の見返りに払うものは事業譲渡時のように「キャッシュ」ではなく、新会社T-2の「株式」です。つまり、T社からT-2社への「現物出資」による事業とその関連財産の移転取引、ということになります。YはT社に 「出資」 してもらいX店を引き継ぐ / T社はYに現物 「出資」 しX店を引き継がせる
すなわち、X店の事業を取得するYから見ると、ノーキャッシュで店舗の経営権を取得できることになります。
もちろんこの場合でも、T社による株主としての間接的な支配は残り、Yは完全なオーナーとは言えませんが、少なくともX店運営の裁量権を手中におさめることができます。(別途「株式のカスタマイズ」が必要です)
通常、X店規模の店舗を一から立ち上げるとなると、少なくとも3,000万円は必要になります。T社にも独立に向けスキルを磨くオーナー志向のベテランスタッフが在籍していますが、彼らがこの規模の店舗を自力で取得することは決して容易なことではありません。彼らが仮に自己資金をいくらか用意し、金融機関からの借入を引き出し独立できたとしても、顧客開拓もスタッフの確保・育成もすべて一からとなり、相当のリスクを負っての店舗運営を強いられます。
一方今回の事例のように、一定の株主のチェックは入るものの、現金を用意することなく(*)店舗を取得し、スタート時点から、顧客とスタッフという経営資源を活用できることは、資金力に乏しいYのようなオーナー志向の技術者にとって、非常に大きなメリットです。
(*)もっとも、この事例では、T-2社代表者となるYも、経営のインセンティブとして株式を取得していますが、この出資は「会社分割」によるX店移転の取引とは別個の行為です。
このように店舗を合理的・経済的に整理したい会社側のニーズと、資本のないオーナー志向の技術者のニーズを一致させるところがこの事例のソリューションのエッセンスです。 言い換えれば、「会社分割」というM&Aスキームには「ノーキャッシュで事業を取得できるテクニックが隠されている」ということです。
これが「事業譲渡」にはない「会社分割」の特性の中心的部分と言え、これをソリューションツールに応用させたのが今回のT社の事例です。
しかし、この「会社分割」はあくまで事業再生の実効性を高めるためのひとつのスキームに過ぎず、T社内に埋もれている人材やモチベーション、アイデアなどの言わばソフトが組み合わさってはじめて有効に機能し得ます。つまり、M&Aスキームである会社分割という ハードに、これらT社の経営資源である ソフト を組み合わせることで埋もれている会社の能力(逆に言えば、会社内部に封印されていることで有効に機能していない能力)を引き出す、これが当事例のソリューションツールの基本構造です。
・工程-3:株式 (定款) カスタマイズ
会社分割によってT-2社に移転されたX店再生、ひいてはT社グループの業績向上策の実効性をさらに高めるため、「株式カスタマイズ」というツールを使って、T社とT-2社(代表者Y)との権利・義務関係のバランス調整を図ります。
すなわち、T-2社の経営の独立性を高めるため「所有」と「経営」の分離を明確にする作業です。
▼会社分割時のT-2社の株主
| T社 | Y(T-2社代表者) | 備 考 | |
|---|---|---|---|
| 株式保有比率 | 93% | 7% | 非公開/取締役会非設置会社 |
会社分割によりT社が取得した(普通)株式は、何もカスタマイズしなければ、持株比率が上表のとおり90%を超え、T社のT-2社に対する経営上の影響力が強くなりすぎ、結果T-2社代表Yイニシアティブによる事業再生の実効性が減殺されてしまいます。
▼カスタマイズA 「議決権」の制限
そこで、T社の持つ株式の議決権を思い切って制限し、経営権をYに集中させます。
(しかし一定の重要事項の決議については議決権を限定的に残し、T社のT-2社に対する最小限のモニタリング機能は残しておきます。)
▼カスタマイズB 「配当」の優先取得
そして、議決権を制限した代わりに、経済的利益、すなわち「配当」を優先的に受けることができるようカスタマイズします。X店の再生が成功すれば、T社はグループ会社T-2社を通じ「配当」というかたちで投資回収を図ることができる仕組みです。
(ちなみにこの子会社からの受取配当は親会社において課税されないというメリットがあります。)
▼カスタマイズC 「買取請求」オプションの付与
さらに、会社分割から一定期間経過後、T社からT-2社へ株式の買取りを請求できるオプションを付けます。
これにより、T社は任意(かつT-2社の財源が確保されていること)でT-2社をT社から切り離すことができます。反対にY-2社側から見れば、T社からの支配を離れ完全に独立した会社となることができます。
▼カスタマイズS 第三者への「譲渡制限」
なお、T-2社の発行する株式はすべて第三者への譲渡が制限される株式となる「非公開会社」に機関設計し、Y-2社の経営に第三者が入ってくることができないようにすることで、Yの経営権を確固としたものにします。
(これと同時にY所有の株式についても若干のカスタマイズを施しています。また同時に「定款」のカスタマイズも必要になりますが、これらについては省略します。)
以上カスタマイズにより、T社とT-2社(Y)との権利・義務関係は概ね均衡し、事業再生の実効性が確保されます。さらに同スキームの実行により、当初リストラ案の店舗閉鎖に伴う諸リスクは回避され、従業員を含めた関係当事者間の利害関係も、下表のとおり調和のとれたかたちとなりそれぞれの「Win-Win関係」が実現します。
▼会社分割スキーム採用による関係当事者のメリット
| T社(親会社) | T-2社(子会社) | |
|---|---|---|
| 代表者Y | X店在籍の従業員 | |
| (1)違法解雇による訴訟リスクの回避 | (1)現金拠出なしでの店舗取得(*) | (1)雇用の確保 |
| (2)慰謝料[和解金]負担の回避 | (2)経営権取得 | (2)経営参画への途 |
| (3)スクラップコスト負担の回避 | (3)従業員のモチベーション向上 | (3)独立支援の享受 |
| (4)使用者責任からの解放 | (4)顧客流出回避 | |
| (5)雇用関連コスト・リスク負担の免除 | (5)営業機会損失の回避 | |
| (6)X店再生による配当収入期待 | (6)自身のビジネスモデル実践 | |
| (7)T社直営店舗への波及効果 | (7)再生ノウハウの蓄積・活用 | |
| (8)再生ノウハウの蓄積・活用 | ||
・工程―4:分割実行後のフォローアップ 当会社分割後、管理部門を持たないT-2社の経営を弊社にてサポートさせていただいています。
私たちの役割は、T-2社の再生ビジネスモデルがその目的を達成するよう、「利益」を生みやすい体質づくりのお手伝いをすることです。これを実現するためにT-2社には(親会社T社同様)弊社アウトソーシングシステムを活用いただいています。
分割後の新X店は、Y氏主導のもとスタッフ全員参加型の店舗運営で業績は順調に回復しています。
同店は、美容室に一般的な「歩合制」という賃金体系をとることなく、トップによる適正な人事評価による昇給とインセンティブ付与との相乗効果で、スタッフのモチベーションを高めます。
そして、X店に帰属する利益をスタッフに合理的に還元する仕組みづくりとして、スタッフの独立支援のためのスキームを構築していきます。X店スタッフが今度はT-2社のグループ会社(店舗)として独立し店舗運営ができるよう、T-2社の会社利益と当事例で活用した現物出資の会社分割スキームなどのビジネスツールを活用することで、スタッフの独立を資本面で支援していく構想です。
「資本」がなくても「アイデア」と「モチベーション」があれば自らの裁量で店舗運営ができる、スタッフにそんな希望と目標を与えることで、技術面はもちろん、サービス・経営的視点を養成していく、小さな組織だからこそ可能なハイブリッドな人事・経営戦略です。
そんなT-2社の構想を実現するため、私たちはアウトソーシングシステムのオプション領域に用意されている「ストックオプション」というビジネスツール(スタッフのインセンティブ向上策)の導入を検討しているところです。
このように、私たちの経営支援は、「点」ではなく「線」で長期的に実質的な利益を生み出す企業体質づくりのサポートさせていただくところに特徴を持つことが、この事例でおわかりいただけると思います。
ところで、T-2社代表のY氏は、今回私たちがT社にご提案したソリューションのプロセスにおいて、関係当事者間のWin-Win関係の構築がX店立て直しのポイントであることに着眼し、このエッセンスを新X店の運営に取入れています。
ひょっとすると、このY氏の「気づき」が今回のT社へのソリューション提供の中で一番の収穫と言えるかもしれません。
私たちのビジネスツールの本質を見抜く力のある、そんなY氏の今後の経営手腕に注目しているところです。
おわりに
この事例のもうひとつのテーマは会社に「あるものを有効に使う」です。
そして、この考え方は私たちが中小企業の経営上の問題を解決していくうえで重視している中小企業支援のコンセプトのひとつでもあります。
もちろん問題解決には「捨てる」経営判断が必要なシーンもありますが、この事例のように一歩引いてみて、今ある経営資源の置き場所を変えたり、組み合わせを変えてみたり、ビジネスツールを使って加工してみたりすることで、会社に内在しているポテンシャルを引き出すこともできます。
この事例ではM&Aスキームをフレームワークに採用しその効果を引き出すことに成功しました。
今後、X店再生のノウハウがグループ会社間でも共有され、T社自身のビジネスツールとなり、これが有効活用されグループ会社全体の業績向上につながることを願います。





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